設計事務所との家づくり
住宅を建てようとお考えになったとき、ハウスメーカーの展示場にいかれる方が多いでしょうか?地元で馴染の工務店(施工業者)に相談する方もいらっしゃるでしょう。住宅の設計はハウスメーカー・工務店・設計事務所が行っていますが、この中で設計事務所だけが建築工事を行わず、純粋に設計業務だけで利益を得ています。
施工業者(ハウスメーカー、工務店等)による家づくりと比較し、メリットとデメリットを挙げてみます。
設計事務所との家づくりの特徴
設計事務所は施工に携わりません。施工中の利益から完全に独立した設計をすることができるのが設計事務所の設計です。
設計事務所のメリット
- 家族に合うオリジナリティの高い住まいを入手できます
制約が少ない状況の下で、建築主の要望を満たすため白紙の状態から様々なことを決めていきます。メーカーを統一する必要もありませんし、家具や設備等既製品に無ければ一から作ることもできます。
趣味に特化した空間を作りたいとか、ペットと共に暮らしたいとか家族にあった個性的でプライベートな要望に対応するのが得意です。自由度の高さが特徴です。
身体障害者対応として、廊下や扉などの幅員が広い家や車いす対応の家など、その方の身体的特徴に合わせた家の設計が可能です。
- 狭小住宅や変形敷地など特殊な土地形状に対応した住宅の設計ができます
敷地の状況や要望、予算など色々と与えられた条件の中で、問題を解消しいかにより良いものを考えていくのが、本来の設計です。物理的な問題や予算の関係で難しいこともありますが、様々な状況に対応し最善のプランができるよう設計を行います。
- 適切な監理が行えます
建て主に代わって、工事が不備なく適切に行われているかチェックをし、工事で使われる材料や機器の品質を確認し問題が無ければ承認します。施工側の事情から切り離された立場・視点で工事中の監理を行います。
建築工事に対してチェックされる側とチェックする側が明確です。工事期間中には、施工業者に悪意がなくてもミスがおこるかもしれません。施工中のミスを減らしより確実な工事が行えます。
- 施工に係る制約を受けず、建築主の利益を最優先にした設計が行えます
フランチャイズ住宅では建材や工法が限定されます。ブランド化された住宅だとさらにデザイン性も統一されます。また、施工時に手間と高い技術が必要な漆喰塗りなど特定の材料や工法は避けたいとか、工期が短くてすむ建材・工法を使いたいとか、在庫を抱えてしまった設備機器や建材を使い切りたいといった様々な施工上の都合があるかと思いますが、設計事務所の設計ではこれら施工者側の都合とは無関係に設計に取り組めます。制約が少なく様々な工法・設備・仕様の中から自由に選択できます。建築主の希望を最優先に設計を行うことができます。
設計事務所のデメリット
- 打ち合わせ回数が多く、設計に時間がかかります
限られた中から選択するのではなく、完全にオーダーメイドです。建売住宅ではほとんどが初めから決まっていて幾つかを選択肢の中から選べばよいという状況ですが、設計事務所の設計では決まっているものは何一つないと言ってもよいぐらいです。間取りについての制限はありませんし、耐震性能・断熱性能・各種住宅設備などのスペックの設定に始まり、構造材・断熱材・仕上げ材などの各種材料の選定などなど要望に基づき決めることがたくさんあります。
建築主にとっては興味がなく何のこだわりもない範囲の事も一つ一つ確認していきます。そこに建築主が気づいていない重大なポイントが隠れているかもしれません。建築主の要望を事細かに把握するため頻繁な打合せが必要です。「手間」と「時間」がかかり面倒に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、打合せは要望を把握しお互いのイメージを共有するための大切な作業です。それが要らない所にかかるお金を節約し、要望を最大限に叶えることに結びつきます。
- 趣向や感性など自分に合う設計者を探す必要があります
建築主の要望を設計者が打ち合わせから正しく読み取っていかねば正しく設計に反映できません。「都会的に」とか「もっとナチュラルに」と同じ単語を使っていてもニュアンスに食い違いがあるかもしれません。お互いに話がしにくかったりかみ合わないと意思の疎通ができず、設計者が建築主の要望をうまく把握していないかもしれません。そうすると設計者の独りよがりな設計となってしまうでしょう。言い方を変えたり写真や図などの表現方法を変えたり、一生懸命、きちんと意図を汲み取ろうとする設計者を探す必要があります。
こんな誤解があります
- 設計事務所の設計した家は完成までに時間がかかります
確かに、ハウスメーカーの家はずいぶん早く完成します。設計事務所が設計した家は、ずいぶん長く工事に時間がかかります。既製品ではなく手間のかかる工法や材料を用いた家づくりは、工期が必要です。
設計事務所が設計する家だから時間がかかるのではなく、工業製品・既製品を用いることが少ない手造りを多用した家にはある程度の工期が必要です。
- 設計事務所の設計する家は高くつきます
手間暇がかかるとどうしても高額になります。大量生産の工業製品と違って、自然素材や少量生産品、手作りの物はどうしても高価です。より良い材料を用いて手間をかけた家はそれなりの工事金額になります。
当事務所の設計料は工事金額に連動しません私の事務所がいただく設計監理料は、工事金額と連動しないようにしています。工事金額が高額になっても、いただく設計料が高くなったりはしません。わざと高額な材料や製品を用いても一切私の利益にはなりません。設計料を多くかせぐためにわざと高額な家を設計するといった不正がないようにしています。
だからといって、お金がかかるのは仕方がないと諦めてはいません。多くの事例では、ご家族のご希望をそのまま取り入れていくと予算オーバーになります。しかし、依頼者の予算内に納まるように設計するのが基本です。ご希望の優先順位をつけたり本当に必要なのか整理したりを一緒に行います。優先順位の低いことは諦めてもらうかもしれません。優先順位の高い事、順位が低くても必要なことにはしっかり予算をかけますが、さまざまなところで無駄を省きコストを節約します。
また、しっかりと施工してくれる工務店を幾つかご紹介し、複数社から見積もりをとります。競争原理も働きます。また、見積書の内容をしっかり確認することで、本当にかかる費用が見えてきます。見積りを見た段階で、コストパフォーマンスが悪いと思われる部分が出てくるかもしれません。そういった箇所は話し合い工事請負契約の前に修正します。
予算があっての家造り。その家づくりのための設計です。
設計事務所との家造りはこんな方に向いています
オリジナリティーを求める方、自然素材など材料まで気配りをした家を造りたい方に向いています。また、余分な経費の出費を抑え用途を明確にしたお金の使い方をしたい方にも向いています。
家は買うものではなく、造るものです派。
施工業者による家づくりの特徴
ハウスメーカーの住宅設計
ハウスメーカーのメリット
- 実物に近いイメージを確認することができる
多くのハウスメーカーがモデルハウスを持っています。設備機器や仕上げの質感などを実際に見られるので、部屋の大きさの感覚やだいたいの雰囲気を建てる前に確認することができます。また、多くのメーカーのモデルハウスが展示されている住宅展示場に行くと、容易にメーカー間の違いを見比べることができます。
- 窓口が一つになり手間がかからない
分譲住宅では土地と建物を併せて購入することができます。計画当初からローンなどの相談等もできますし、ハウスメーカーでは、土地の取得、設計(建築相談)から建物の完成まで一社に全て任せればよいので手間がかかりません。
- 選択肢から選べるのであまり迷わなくて済みます
範囲が限られるというデメリットと表裏一体ですが、提示された選択肢から選べばよいので迷う要素が少なくてすみます。
- 工期が短い
予め工場で製作されたパーツを現場で組み立てるだけになっているものが多く、作業自体がスピーディーです。一般的には、5~6か月ほどの工程が、およそ2~3か月で完成します。
ハウスメーカーのデメリット
- 選択肢が少なく自由度が低い
フリープランと言いつつも間取りは規格の範囲内に制限されています。外観や内装に関しても選択肢が絞られており、他の住宅と似通ったものになりがちです。その結果、個性的な空間を造るのが苦手です。建材や設備機器などはオプション仕様も一部選べるようにしてありますが、オプション仕様は一般的に高額です。
不特定多数の方を対象にするハウスメーカーの家は、広く大多数の方に受けいれられる家になっており、個性的な要望に対応するのが苦手です。
- 営業や宣伝広告費などの経費が建設費に含まれます
全国各所で定期的に建て替えられるモデルハウスの建設費や維持管理費と展示場のスタッフの人件費だけでなくテレビや雑誌の広告宣伝費などのコスト・経費が建物価格に含まれています。
- 工業製品・既製品が多用されます
どのお客様にもばらつきなく一定の品質のものを提供するため、大量に生産される既製品をメインに用いての家づくりとなります。また、作業の高効率化・施工性が優先され、ビニルクロスやサイディングなどの工業製品が多用されます。規格化されたパーツ・工法・仕様を多く利用し、品質が揃えられない自然素材や手造り品は避けられてしまいます。
- デザイン住宅は数年で一般化し飽きられやすい
数を売らなければならず、数が増えるにつれデザインが一般化・没個性化し、飽きられる可能性があります。かつての南欧風の土壁風に素焼き瓦調の屋根の住まいや、真っ白の空間に黒い木材を多用した和風の家などあっという間に流行し廃れていきました。
- 適切に施工されているかを確認できない
本来、工事中は施工者とは異なる立場で適切な工事が行われているか、手抜きや間違い不備はないのか、品質を確認する必要があります。工事中に変更があり工事金額にも増減が生じる場合には、事前に依頼者の了承が必要です。また、工事は予定の通りに進んでいるのか、遅れはないのか?を確認しないといけません。これを監理と言い、管理とは異なります。施工者の設計施工では、この監理を自分自身で行います。手抜きや間違いがあっても見て見ぬふりはしないのでしょうか?見逃されたりはしないのでしょうか?この点がクリアにならないのが設計事務所による家造りとの最大の違いです。
ハウスメーカーの家はこんな方に向いています
家に手造り感を求めず工業製品として捉え、手間暇かけずに購入したい方に向いています。
家は造るものではなく、買うものです派。
工務店による住宅設計
大手ハウスメーカーのように独自の「商品」がありモデルハウスを持っている工務店や、設計事務所のように一から要望を聞いて家づくりをする工務店、フランチャイズ制度に加入し規格に基づく家を提供する工務店、地元の山林から伐採された木材で「地産地消」を謳う工務店など、そのスタイルは様々です。
そのスタイルに応じて特徴は様々で、設計事務所のような特徴を有していたり、ハウスメーカーとしての特徴を兼ね備えていたりします。いずれにしても、設計施工を一貫して受注します。
工務店のメリット
- 地域密着で担当者の顔が見える
地域に根差して活動していますので紹介による受注も多く、その地域での評判はとても大切です。地域での良い評価の獲得のために丁寧な施工を心掛けてくれます。
また経営者は異動や転勤がありませんから、建てた後のアフターメンテナンスへの責任感も強くなります。
- ハウスメーカーより自由度が高い家づくりができる
フランチャイズの家では、特定の材料や工法を使わなければなりませんが、そうでなければ比較的自由に建築主の要望に基づいた家づくりができます。規格の範囲内しか対応できないハウスメーカーよりも自由度の高い家づくりができます。
工務店のデメリット
- 施工上の都合が組み込まれる可能性がある
施工業者が設計を行いますので、施工性を重視した設計になる可能性があります。
施工業者としては、施工が容易で手間が少ない工法・材料を優先して使いたいですし、新たなものを提案するよりいつもの仕様やいつも使い慣れた材料の方が施工上安心です。また、関連業者の材料や取扱メーカーの商品を主に使いたいはずです。フランチャイズの家では、特定の材料や工法を使わなければなりません。
施工性を重視すると工業製品・既製品が多用されがちになります。
たとえば、床の仕上げで工業製品である複合フローリング貼だと、現場に届き梱包をといた後は取り出しながら貼りつけるだけで床が完成します。
一方、無垢フローリングの場合は、現場に届いた梱包をといて大工職がソリや割れ、問題になる節等がないかを確認しつつ色目などの見た目を整えながら仮並べをします。仮並べを終えて貼りつけです。貼り終えても完成ではありません。傷がつかないよう「養生」で保護しておき、塗装職の作業を待ちます。塗装職が自然オイルやワックスを塗り、乾燥を待ちます。乾燥するとようやく完成です。
多く流通している複合フローリングのサイズは303×1818mmで、無垢フローリング3~4枚分の幅がすでに組まれた状態のデザインになっています。同じ面積を無垢フローリングで貼ろうとすると、その枚数は複合フローリングの3~4倍になるのです。このようにかかる手間と時間が全く異なります。