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木造住宅の土台に何を使うか

公開日:2023.10.03

土台は木構造の最下端でコンクリートの基礎に緊結され、建物に架かる荷重を分散し基礎を通して地盤に伝える役目をしています。現代の木造住宅では基礎の上に転ばせた土台の上に柱を立てる工法が一般的で、地震などの時には柱から土台に大きな荷重が加わります。土台のめり込みに対する強度が弱いと柱がめり込んでしまう可能性があります。めり込みに強い樹種が望まれますが、本来は構造計算をしてめり込みを起こすほどの荷重が加わらないことを確認する必要があります。

地盤面に近く湿気、水分やシロアリなどの要因で最も多く老朽化が見られる部材です。土台を湿気させたり水で濡らしてしまう要因として、断熱層の不具合による内部結露や、外壁のひび割れやコーキングの劣化などによる雨水の染み込み、屋根の不具合による漏水などがあります。多量の湿気や漏水はカビや腐朽菌の繁殖を招くだけでなく、木材が乾燥していると寄りつきにくいシロアリの侵入を容易に許してしまいます。土台には物理的な強度だけでなく耐水性、耐湿性、耐腐朽だけでなくシロアリの食害に強いことが求められます

基礎に固定された土台の写真

土台として使われる樹種

ヒノキ

抗菌・防虫作用や木材腐朽菌の繁殖を抑制する成分を含み、菌や虫、腐朽に対する耐性が高い木材です。土台として利用するのに強度は十分です。防蟻剤などの薬剤を使わなくても良いので、薬剤を使いたくないという方におすすめです。土台には節のある一等材で十分です。流通量が多く安定して入手することができ、コストパフォーマンスに優れます。最も一般的に利用されている木材です。

杉も芯材(赤身)に限り比較的耐久性と耐蟻性の高い木材です。辺材(白太)は腐りやすい上に耐蟻性も劣りますので、辺材を含まない総赤身と呼ばれるグレードを利用する必要があります。入手性もよく安価なのでコストを抑える事ができます。

ヒバ

強度的な性質はヒノキとほぼ同じです。ヒバにはヒノキよりも多くのヒノキチオールが含まれており、極めて腐りにくく、水湿にも耐え、白蟻の食害にも強く、非常に耐久性が高い材です。檜よりもコストはかかりますが、薬剤を使わない家造りを希望する方に向いています。生息地は関東以北で主に青森県(青森ヒバ)と石川県(能登アテ)のヒバ林が有名です。

米ヒバ(ベイヒバ)

米ヒバは、アメリカのアラスカ州からオレゴン州の太平洋岸の標高の高い地域に広く分布するヒノキの仲間(ヒノキ科ヒノキ属)です。匂いや色が日本のヒバによく似ているため米ヒバと呼ばれていますが、ヒバの仲間(ヒノキ科アスナロ属)ではありません。日本のヒバの代替材として利用されていますが、全くの同等と期待しないほうが良いと思われます。

日本のヒノキなどと同様に、耐久性、耐水性、耐蟻性に優れます。

針葉樹が構造材としてよく利用される中、クリは珍しく広葉樹です。非常に硬いうえ水湿に強く腐りづらいため、線路の枕木にも利用されていました。築数百年にもなる文化財級の建築物でも土台として使われているのがよく見られます。栗は白蟻や腐朽菌に対して抑制効果のあるタンニンを多く含むため高い防蟻性を有しています。国産材の中で最も保存性が高い木と言えます。

木質が緻密で乾燥が難しく暴れやすいこと、長く真っ直ぐな材を得るのが難しく、また市場にほとんど流通していないためかなり入手しにくく高価です。現在、住宅の土台としてはめったに利用されません。

サイプレス(豪州ヒノキ)

オーストラリア原産のヒノキ科カリトリス属の樹木です。日本の桧に似ているため豪州桧と呼ばれていますが、桧の仲間(ヒノキ科ヒノキ属)ではなりません。カリトリス属には16種の認識された種があり、そのうち13種はオーストラリア原産で他の3種はニューカレドニア原産で、南半球で進化したグループの樹です。

成長が遅く木質は緻密で重い上に硬く、土台として利用するには十分な強度を持ち合わせています。また、シロアリが多く生息する地域の樹で、シロアリに対する抵抗力が非常に高く「世界一シロアリに強い木」と言われています。屋外のウッドデッキ材として有名で、住宅の土台としてはあまり知られていませんが市場に流通しています。ウッドデッキでよく利用されるように、水濡れや湿気にも非常に強く耐朽性が高いことが伺われます。

(このページ冒頭の写真に写っている土台は以前採用したサイプレスの土台です。年輪が緻密で美しい樹肌で、写真からも硬そうな様子が伺えます。)

ベイツガ(米栂)注入材

アラスカ州南部から米国の南西部の太平洋沿岸に広く分布するマツ科ツガ属の樹です。米栂は耐朽性が低く水分の多い場所や高湿度の環境では腐りやすい樹です。また、シロアリにも非常に弱い木材で、無処理で土台として利用されることはありません。土台として利用するには防腐・防蟻効果を付与する薬剤処理を施します。

薬剤処理

薬剤処理は、塗布や吹き付ける他に加圧注入と言われる方法があります。塗布や吹付では表面から数ミリしか薬剤が浸透しませんが、加圧注入では表面から10ミリ以上の深さまで薬剤を浸透させることができます。しかし、中心部まで完全に浸透させることはできずに中央付近に未処理の部分が残ってしまいます。加圧注入では薬剤を木材の表面から均一に浸透させるために、材の表面に細かい切り込みを適当な間隔で入れるインサイジング加工が施されることが多くあります。

加圧注入後に切断したりほぞ穴などの加工を施すと、薬剤が浸透していない部分が露出してしまいます。この部分にシロアリは容易に近づいて食い入る事ができます。加工部分に何らかの薬剤を塗布しなければなりませんが、注入と違い塗布では表面のみの処理となります。このような問題を解決するためにプレカット後に加圧注入することで、薬の効果を十分発揮させ耐久性の向上が期待できます。

住まいを考える

土台の材に何を選ぶか?

30~50年の耐用年数を目安に、高湿度下に長くさらさない(確実な内部結露対策、定期的な外壁のメンテナンスなど)ことを前提にすると、土台として杉や檜の無垢材、ベイツガ注入材など一般的に広く流通している材ならどれを選んでも問題はありません

安く建てたい場合

できる限り安く建てたいという場合に、薬剤処理をしたベイツガ材が多く利用されています。湿気で腐りやすくシロアリにも弱いベイツガを薬剤処理して使う最大のメリットが安い事です。

自然素材にこだわる(薬を使いたくない)場合

化学物質や薬剤をできるだけ使わず自然素材にこだわると土台も無垢材を利用することになります。性能の良さとコストパフォーマンスや入手性の良さを考えるとヒノキ材が一番オススメできます。

多少入手しにくくヒノキよりもコストはアップしますが、国産にこだわるならば青森ヒバや能登アテがおすすめです。ヒノキより耐朽性・防蟻性が高いのがヒバです。

輸入材で良い場合は、北米大陸のベイヒバやオーストラリアのサイプレスがあります。ベイヒバは認知度も高く多く流通していますが、サイプレスはあまり知られていないようです。コストが許されるのであれば強度的にも耐朽性や耐蟻性の高さからサイプレスが非常におすすめできます。ただサイプレスであっても耐朽性・耐蟻性に優れるのは中心部の赤身となりますので、総赤身の部材が入手できると安心です。

数百年使い続けられる家を建てたい場合(無垢材を利用する場合)

江戸時代からある古民家のように100年~200年もしくはそれ以上使い続けられる住宅をお望みでしたら、無垢材一択です。国産材であれば桧かヒバ、輸入材でも良いのであればサイプレスが耐朽性・防蟻性が高くの中でも白太部分を一切含まない総赤身と言われる部分で丁寧に管理された天然乾燥材を選べば完成後のメンテナンス次第で100年以上使い続けることは十分可能です。

最上級のものを選ぶとすると、上で紹介した中でも最も硬く強度が高い上、最も耐朽性と防蟻性に優れるのが栗です。ただ、値段も最も高価で入手性もかなり悪くなります。広葉樹なので真っ直ぐな長尺材が少なく短い材を繋いで使うことになりますし、加工性も悪く木の一本一本を見極めて材が暴れるのを防がないといけないため熟練の大工のノウハウが必要です。