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軒の必要性

公開日:2012.02.29最終更新日:2018.09.10

最近は箱の家といって屋根を見せない造りの家が流行っています。箱の家まではいかなくても、軒の出の少ない家がずいぶん増えています。しかし、雨の多い日本で軒の出が無いもしくは少ない家は耐久性の面で大きな問題があると思います。

意外と水に弱い外壁

近年主流になったサイディングはパネルを張り上げるのでどうしても継ぎ目が生じます。継ぎ目の目地はシリコン等で埋めます(シーリング)が、そのシーリング材は経年劣化し寿命が来ます。最近は高耐久性のシーリング材がありますが、一般的には10年ほどでやり替え(一度はがして再充填)が必要です。シーリングが劣化したまま放置すると、継ぎ目から水が染み込みます。次第に壁だけでなく柱なども腐らせてしまいます。

モルタルに塗装を施した壁も、多く見かけます。モルタル自体の防水性能は低く、実際には塗膜が防水性能を発揮しています。その塗膜は経年劣化で遮水性能が劣ってきます。意外と耐用年数は短く、メーカーではおよそ7~10年程度でのメンテナンスを推奨しています。また、モルタルのひび割れを防ぐために一般的に目地がとられています。モルタル自体にも微細なクラックが生じる可能性があります。このクラックも水の侵入経路になってしまいます。

このように外壁は水に対して万全とは言えず、長期的には漏水面で不安な要素が多いのです。

深い軒のメリット

昔の日本の家のように軒が出た家は、日常の雨はほとんど壁に当たりません。(強風特に台風の時は防ぎようがないのですが)雨が当たらないので外壁が汚れにくく長く美観が保てます

外壁が濡れる事が少なければ水濡れが原因となる壁の劣化が減りますし、クラックなど外壁に多少のトラブルが生じても即座に致命的なダメージに結びついたりしません。深い軒は長く美観を保ち、壁体内への漏水の危険を減らしてくれます。

軒の深い屋根の写真
軒が漏水のトラブルを防ぎます

シーリングが切れたりといったトラブルが外壁にあり外壁下地まで漏水する箇所ができたとします。

万が一漏水してしまっても軒が深い家でたまの事なら漏水しても乾燥する期間があるということです。無垢の木なら一旦濡らしてしまっても、きちんと乾燥すれば問題ありません。

もし軒が無い家で梅雨時毎日のように雨が降り漏水するなら、壁の仕上げの裏は常に濡れた状態になり下地だけでなく柱や梁・土台なども腐らせてしまうかもしれません。また壁の下地の湿気た状態が長いと白アリが寄り付きやすくなります。

そもそも外壁に雨がかからなければ、外壁のトラブルが原因で建物を腐らせるということはないのです。

さらに、雨が吹き込むのを防げるので梅雨時でも窓を開け放しにできます。夏の夕立など不意に降る雨にも安心です。最近の家は軒どころか庇のない家も多く、ちょっとした雨でも室内に雨が吹き込んで不便で仕方がないのではないでしょうか。

特に南側の軒は、夏の直射日光が室内に差し込むのを防ぐことができます。日射熱により室内の温度が上がるのを防ぎクーラーの効率が良くなります。省エネ性能が向上します

深い軒下には自転車などを置くこともできます。

深い軒のデメリット

デメリットも存在します。まずは、軒があることで吹き上げる風を受けてしまいます。軒が大きいほど強い風を受けますので、台風時などに屋根が飛ばされないようにしっかりと固定する必要があります。

軒を出せば出すほど屋根面積が増えその分コストがかかります。また軒を深くするとそれを支える下地の垂木を大きなものにしないといけません。垂木は部材の数も多くコストアップも無視できません。

デザイン的に制限され、好き嫌いがあります。深い軒で大きくなった屋根は、トラディショナル(伝統的、古風)な雰囲気が強くなりがちです。好きならば問題ありませんが、好みでないとするとなかなか受け入れられないでしょう。

軒の出が少ない家の理由は何なのか?

深い軒に大きなメリットがある一方で、軒の出が少ない家が増えるのはなぜでしょうか?

まず一番大きな理由は、デザイン的な要素だと思います。箱の家と呼ばれる軒の出の無い家が流行ったりシンプルで現代的な外観が好まれ、深い軒の家に古臭さを感じる方がいらっしゃるでしょう。雰囲気として自然素材の家には馴染みやすそうですが、無機質で現代的(モダン)なイメージには使いにくそうです。

次にコストの面です。軒の出が少なければ屋根の面積が減り、その分コストが安くなります。また、軒の出が少なければ下地(垂木)も小さな部材で済み、その分コストが安くなります。このように、何かとコストを低く抑えることができるので、建てる側にしてみれば軒の出が少ないのは大歓迎でしょう。安くてデザイン良くて客受けが良い、現代のニーズにピッタリです。

また、小さな土地にできるだけ大きな住宅を建てようとした場合、敷地境界線ギリギリに外壁が来てしまいます。そうなると軒を出せません。

深い軒で住まいも長持ち

どうしても軒の出の少ない家や軒のない家・箱の家が良いという方は、きちんとメンテナンス費用を積み立てておき、シーリングの打ち直しや塗装のやり直しなど十数年ごとにこまめなメンテナンスを心がけてもらいたいと思います。また日頃から外壁のトラブルに気をつけてください。

私は軒の出が無いのは住宅の寿命にとって致命的な欠陥だという認識です。敷地の制約上致し方ない場合等を除き軒のない家・軒の出の少ない家は勧めておりません。しっかりと軒をとった住宅の設計を心がけています。

建設費(イニシャルコスト)は多少かかるかもしれません。外壁のメンテナンスの必要性が減り省エネのおかげでランニングコストは少なくなるかもしれません。でも、それらよりも大きなメリットは、外壁のトラブルに対してとても強い家になります。住宅の長寿命化に貢献します。多少の雨では吹き込まない家は快適です。深い軒で長く快適に過ごせる住まいを手に入れてください。

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