サッシ・窓枠の素材の種類と選び方
公開日:2019.01.21最終更新日:2022.11.08
高断熱化が注目される中、断熱材だけでなくサッシにも注目が集まっています。現在の日本では、アルミサッシが最も普及していますが、アルミニウムは熱伝導性が高く断熱性能の低い事に注目が集まっています。住宅をきちんと断熱しようとするとガラスと共にガラスを受ける枠となるサッシも断熱性能の高さが求められます。
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住宅の平均熱貫流率の計算で用いるある物質の熱の伝えやすさを表す熱伝導率(W/m・K)の数値は、アルミニウム:210、鋼(鉄):55、ガラス:1、木材:0.12です。同じ金属の鉄と比べてもアルミニウムが際立って熱伝導率が高いのが分かります。ちなみに、樹脂サッシで使われるプラスチック樹脂は塩化ビニル樹脂です。その塩化ビニル樹脂の熱伝導率は0.17で、アルミニウムと比べ1200倍も熱を通しにくい物です。木材は自然素材でもともと数値にむらがありますが、樹種でも数値が異なります。計算では便宜上0.12を利用しますが、杉:0.087、桧:0.095、ナラ・サクラ:0.19、といったデータもあります。柔らかい針葉樹は低く、硬い広葉樹は高くなります。
サッシの素材
アルミニウム
金属の中では軽量で柔らかく加工がしやすいため大量生産に向いています。そのため安価です。軽量で開け閉めがしやすく、対候性、耐久性があるため一気に普及しました。樹脂との複合サッシを含めて現在の日本ではまだまだ主流の素材です。
アルミの熱伝導率はかなり高く断熱性に劣ります。これが住宅の高断熱化と共に大きな問題になってきました。ガラスは熱線反射ガラスや2層3層の複層ガラスが多く利用され始めていますが、そのガラスの熱伝導率は1で、アルミは210倍もガラスより熱を伝えています。部材が細く面積が小さいためこれまで無視されていた形です。複層ガラスを用いることでガラス部分の結露は抑えられたとしてもアルミのサッシ枠が結露してしまいます。
日本では大きなシェアを誇っているアルミサッシですが、実は住宅用サッシとして世界的にはあまり利用されていません。アメリカでは50州のうち24州でアルミサッシの利用が禁止されています。
樹脂
プラスチック樹脂でサッシの素材として利用されるのは硬質塩化ビニル樹脂です。熱伝導率はアルミニウムの210に対し硬質塩化ビニル樹脂は0.17とおよそ1200倍も低く断熱性に優れます。強度的にはアルミに劣るため、肉厚にしたり枠を大きく太くすることでカバーしています。その分重量が増し、窓の開閉動作が重く感じるようです。
樹脂サッシは1960年にドイツで開発されドイツやイギリスでは現在も60~70%の高いシェアを誇っています。日本では1976年に販売開始されているようです。日本では北海道や東北地方の寒冷地でのシェアは高いのですが、それ以外の温暖な地域ではほとんど普及していません。世界的には古くから広く使用されている素材で実績は十分です。紫外線や雨にさらされるということで耐候性、耐久性が気になりますが、これまで大きな不具合は無いようです。適切なメンテナンスで30年程度かそれ以上品質が維持できるようです。
防火の面では、都市部などサッシの防火性能が求められる地域で利用が限定されます。ごく一部、防火認定を取得している樹脂サッシがあります。
価格面ではアルミサッシと比べるてまだまだ高価なのが欠点ですが、今後樹脂サッシが主流となるにつれ価格もこなれて来るものと思われます。
木
最大の特徴は何と言っても自然素材です。高級感があり見た目にも温かくどんな空間にも似合います。木の熱伝導率を0.12で見ると、アルミニウムと比べおよそ1700倍、杉などのようにさらに低い熱伝導率0.09だとおよそ2300倍も熱を通しにくい素材です。樹脂と同等かそれ以上の断熱性能となります。
一方で耐候性に劣るのが最大のデメリットです。意匠性の向上、耐候性の向上のため保護塗装を施しますが、どうしても塗装は劣化します。腐らせないためにも定期的な塗装のし直しが必須です。用いる塗料も塗膜を作らない浸透性の保護塗装が良いかと思います。塗膜を張るタイプは塗膜の下に染み込んだ水分が乾燥しにくく、かえって劣化を進めてしまいます。ある木製サッシメーカーでは設置後2年で再塗装し、その後は5年毎の再塗装が推奨されています。
また、樹脂と比較しても購入価格が高いのもデメリットです。
あまり馴染がないので特注で作ってもらうイメージがありますが、特注をしなくても既に木製サッシのメーカーが幾つかあります。アルミサッシと同じ感覚で採用できます。メーカー毎に採用する樹種が異なりますし、また幾つかの樹種から選べるメーカーもあります。またサッシ形状・色なども併せてバリエーションは豊富です。
一般に燃えやすい木ですが、防火認定を取得して防火地域でも使える木製サッシがあります。
複合サッシ
耐候性が必要な外部側にアルミニウムを、美観が求められる内部側に樹脂や木を組み合わせて作ったサッシです。内部と外部でパーツを完全に分割し、内部側に熱伝導率の低い樹脂・木を利用することで熱の伝達を抑えようとするものです。組み合わせて作るので、単純に樹脂だけ木だけのサッシより断熱性能は劣ります。
その他(鉄、ガラスブロック)
- 鉄・スチール
住宅ではあまり使われませんが、スチールも型材を加工してサッシとして用いられています。強度があるため細い部材で作製でき、大きな開口部をシャープに作ることができます。錆が生じるため塗装が必須です。塗料の種類にもよりますが比較的短い期間での塗り直しなどのメンテナンスが必要です。重量があるため、開け閉めをする大きな開口部を作るには不向きです。
サッシの素材の選び方
価格的に安価なものから、アルミサッシ<複合サッシ(樹脂+アルミ)<樹脂サッシ=複合サッシ(木+アルミ)<木製サッシの順でしょうか。コスト面では複合サッシが候補になりがちだと思います。ただ、純粋な樹脂サッシや木製サッシと比べると断熱性能が劣ります。
東北地方や北海道ならこの点が中途半端になるので複合サッシではなく、純粋な樹脂か木にすべきです。温暖な6地域の兵庫を含む西日本では、複合サッシにしっかりとLow-Eのペアガラスをはめ込んでおけば、現時点で求められるH28基準の断熱性能をクリアするためにはひとまず問題ないレベルと言えるでしょう。ただ、国の方針として段階的に省エネ基準を引き上げる方針が発表されており、遠くない将来に複合サッシでさえ性能不足になる可能性があります。また、私個人的には日本で求められる断熱性能自体が低すぎると考えているので、新築の場合はより高断熱化が図れる樹脂サッシもしくは木製サッシを最低ラインにお勧めしています。
参考情報
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた住宅・建築物の対策をとりまとめ - 国土交通省報道発表資料(R03.08.23)より
脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ(2021.8)国交省・経産省・環境省 (pdfファイル) - 掲載産業省ニュースリリース(R03.08.23)より
プラスチック樹脂サッシは原材料を管理すれば工場で安定した品質の製品を大量生産できます。現在のサッシの大手メーカーもアルミをプラスチック樹脂に置き換えるのは簡単です。大量生産によるコストダウンをしやすいのが樹脂サッシです。さらなる需要の増加と共に価格もこなれて安価になるのではないでしょうか。世界の寒冷な地域ではすでに樹脂サッシが標準ですが、日本でも今後樹脂サッシが標準になるでしょう。
美観的にも性能的にも木製サッシは優れています。ヨーロッパ、中でも北欧では木製サッシが広く普及しています。ただ、ヨーロッパ特に北欧よりも日本はかなり南に位置し、温暖な上に多湿で木は腐りやすく耐久性が問題になります。また、木のサッシを造るには、木の状態を見抜く目と材の使い方に技術が必要でどうしても職人による手作業がでてきます。高価なものになりがちです。定期的なメンテナンスをきちんとできて導入コストも問題ないという方には、性能面も美観面も優れている木製サッシがお薦めです。