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高砂の家|バリアフリー・車椅子対応

片麻痺(右麻痺)の奥様が、安心して自立した生活ができるよういろいろと工夫してみました。今までのご主人・ご家族による介助をできるだけ減らし、奥様一人で日常の生活行為のほとんどができることを目標に設備機器や椅子(ベンチ)・補助手摺などでサポートしています。

移動は杖と手摺でサポートした歩行が基本ですが、いつでも車椅子を利用できるよう現段階で車椅子に対応し、広目の通路部分を確保しています。通路を広くしておくことで車いすを使わない場合でも、十分な介助スペースが確保できます。もちろん、床には段差がありません。

洗面・トイレ等の必須な日常生活行為は一人で行えるよう、それらの部屋は全て1階に動線を短く配置し、補助手摺でサポートします。さらに炊事や洗濯・入浴なども積極的に行えるよう配慮しています。今できない事でも訓練や回復次第で将来できることを増やし、やる気が湧き元気あふれる住宅を目標にしています。

補助手摺によるサポート

補助手摺には、移動・立ち座り・姿勢保持をサポートする役割があります。

体勢を変える場所や何か行為をする場所には、手摺を取り付けサポートします。また、段差が生じる場所にも補助手摺が必要です。基本的に床面は段差無しにしていますが、玄関と座敷に段差を付けています。

玄関

玄関の補助手摺

玄関の段差をなくすことは可能です。しかし、ご家族皆様下足と上履きの区切りのため段差が欲しいとの事で、8cmの段差を設置しています。2、3cmの小さな段差ではかえって躓いたりのトラブルが増えます。将来車いすを利用しスロープを設ける場合に玄関土間内で処理できる高さが8cmでした。この段を乗り越えるために、ベンチと手摺でサポートします。ベンチは、靴の履き替え時にも利用します。

出入りの際には、下足箱に取り付けた手摺に掴まり一度ベンチに腰掛けます。そして、靴の履き替えと足の移動をした後、再度手摺を使って立ち上がります。

写真の下足入は既製品の座面高さや広さなど一部改造して利用しています。座面が広いので、玄関で簡単な立ち話をしたいお客様の時でも楽に座って話ができます。

個人的なことですが、私は大切なひも靴はひもを解いて脱いだり履いたりします。このベンチを使わせてもらうと、それがとっても楽に行えることを知りました。一般のご家庭でもひも靴をよく利用される方にはベンチの設置をお薦めします。

トイレ

トイレ

0.75坪の広いトイレに、機器および手摺を全て左利きに合わせて設置しています。本来は、トイレの奥に進ために左壁面にも手摺が必要です。写真撮影時には、収納が出ている分手摺取り付け用の脚が長い製品を取り寄せ中で、未設置となっています。

一般的に便器は長手方向に設置することが多いのですが、このように取り付けると便器に腰掛ける時の体の回転が90度で済みます。一方長手方向に便器を設置した場合は、180度回転させる必要があります。しゃがむ時に頭が窮屈な感じがしますし、座ってからも壁が近く狭い感じがしますが、このように設置する方が奥様にとっては体勢が変えやすく使いやすいトイレとなります。

またこの便器配置では、入り口付近に広くスペースが余るように思われますが、介助のスペースとして有効に利用できますし、万が一車椅子を利用する場合も進入スペースになります。

ちなみに、紙巻器はワンハンドカットといって、片手だけで紙を切ることの出来る商品です。手洗い(右下隅に写っています)はセンサー式で、手をかざすだけで利用できます。

洗面脱衣室のベンチと手摺

入浴も一人で行いたいということです。片麻痺の方は服を脱いだり着たりする際にバランスをとるのが大変です。そのままでは一人で行うのはほぼ不可能でしょうから、服を脱ぎ着するサポートのために椅子と手摺を設けました。

洗面所にある服を脱ぐためのベンチと手摺

その椅子は、普通の椅子では座面が小さく座り方が制限されます。また体を大きく動かした際に椅子ごと動いたり、万が一にも椅子と一緒に倒れては困ります。座面を広くするのと椅子を固定するために、大き目のベンチを取り付けます。

ベンチに腰かけて壁のコーナーにもたれ掛かることで体のバランスを崩すことが無くなります。これで利き手が自由に使えるようになりますので、服を着たり脱いだりといった行為がし易くなります。

ベンチ横の縦の手摺が立ち座りをサポートします。

階段

階段の両側に手摺を設置

住まいは1階で全ての生活ができるように設計してあり、片麻痺の奥様は階段を使って2階に上がる必要はありません。

それでも、リハビリを兼ねて階段の上り下りの運動をしたいという積極的な奥様のために、両側に手摺を設けたとても緩い階段としました。そして、2階に広いバルコニーを用意し、ぐるりと手摺をめぐらした歩行訓練のスペースを設けました。

階段の蹴上げは低く(177mm、一般は210mm程度)踏み面は広く(260mm、一般は240mm程度)しました。公共施設や病院と同様の緩い階段でとても上り下りがし易くなっています。また、幅員も広い(手摺内法寸法820mm、一般700mm程度)ので安心して介助ができます。

蹴上げ板を白色にし、一段一段が明確になるよう配慮しています。これは、視力が弱くなった方や色盲の方でも、明度の違いにより段差が視認し易くします。また、各段にホタルライトをつけ夜間の視認性も向上させています。

片麻痺の奥様をサポートするための手摺ですので、基本的には行きと帰りのため両側に手摺が必要です。そのため廊下・階段などは、少し幅員を広くしています。

注意事項

注記:全ての手摺は、高砂の家の奥様に合わせて設置されたものです。写真で紹介させていただいた状態を再現されましても、どなたにでも有効なものになるとは限りません。障害の種類・状態・体格・姿勢・行動時の癖などにより、取り付け位置・手摺形状・寸法を検討する必要があります。ご注意ください。

車椅子対応機器によるサポート

体を支えるために利き手で手摺を握ってしまうと、肝心な作業を行うことができません。作業を行う場所では座って姿勢を保持し、手を空けるのが基本です。

洗面化粧台

車椅子対応洗面化粧台

この機器は車いす専用ではなく、イスが使えるように足元が掘り込まれたものです。一般の方でも洗髪やメイクなど時間がかかる行為を座って行えるようになり体の負担が減ります。

写真の中では参考までに身近にあった簡易的な椅子をセットしています。この椅子はバランスを崩し易く片麻痺の方には不向きです。よりドッシリと安定した背もたれもしっかりしている椅子が向いています。一般的な食卓に用いるような椅子が良いのですが、お一人で洗面化粧台を利用するときには、座るのにも押したり引いたりするのに椅子の動きが悪い点が不便です。かと言って、キャスター付きは不意に動いてしまい危険なので使えません。

そこで、杖や手摺と同じように車椅子を有効に利用していただくのが良いのではないかと思っています。日常車いすを利用されていない方に車椅子の利用は抵抗があるかもしれませんが、こういう場所では4本脚のイスよりも動きやすいですし、キャスターの様に不意に動いてしまうこともなく便利なはずです。

車いす対応キッチン

車椅子対応キッチン

キッチンはL型レイアウトで、カウンター下部の空いた車椅子対応です。左利きなので作業の流れも左向きです。

イスは長時間調理の下ごしらえをしたり皿などを洗ったりする時などに使うと、どなたにもとても楽で便利です。今は車椅子専用だけでなく、椅子利用に対応した化粧台やキッチンが既製品でも増えています。

建物形体の工夫

座敷の対応の仕方

座敷の間はゆったり座れてくつろげる空間ですが、立ち座りの動作に困難が伴う片麻痺の奥様にはとても使いにくい空間です。そこで、座敷の床の高さをイスの座面高さに合わせ、堀座卓を仕込みました。この工夫により椅子に座る、椅子から立ち上がるのと同じ動作で座敷が利用できるようになります。

座敷を一段高くしました

その座敷の使い方は、まず上り框横の竪の手摺(上の写真ではカーテンの陰にあります)もしくはカウンターテーブルの端をサポートに利用して座敷に腰掛けます。その後、足を持ち上げ、方向転換をし、少しお尻を滑らせて堀座卓に移ります。座敷から離れる時はその逆です。

座敷を一段高くしました

座敷の床は、クッション性があるコルクを選びました。冬にはひんやりとした感触が少なくて済みますが、床暖房対応のコルクフロアをえらびテーブル周囲の座面全周に床暖房を仕込んでいます。

堀座卓は脚が中央にあるものを選択してあるので、4隅には身体をずらして移動する時に邪魔になる脚がありません。座卓に掴まりちょっとお尻を滑らせれば、どこにでもお気に入りの場所に移動できます。

また、座敷の床の高さが車椅子の座面の高さとほぼ同じなので、車椅子を利用する場合も横付けし容易に座敷に移動できます。将来万が一車いすを利用することになっても、そのまま座敷を利用することができます。

段差の対応(玄関アプローチ編)

片麻痺の方のために作った玄関アプローチの様子です。玄関アプローチで障害者対応というとすぐに思い起こされるのはスロープです。そのスロープも実は万能ではありません。

玄関アプローチ

片麻痺の方は片足だけで姿勢を保つ(バランスを取る)必要があります。斜めの床の上では常にバランスを保ち続けなければならず、長いスロープでは疲れてしまいます。斜めの床でうまくバランスが取れない方だと前に進むことができません。

一方、階段では一段上る事ができれば段ごとにフラットなスペースがあります。フラットな床の上だと体を安定させることができますし、登る動作に疲れた場合でも静止して休憩することができます。低い段差を乗り越える事の出来る片麻痺の方には、緩い階段の方が上り易いのです。

今回、住宅の内部は車いイスで移動することを配慮しましたが、外部はスロープは未設置です。万が一車椅子を利用することになった場合でも、スペースさえ確保できていればスロープを設けることはそう難しくはありません。また、車いすでの住宅への出入り口は玄関でなくても良く、写真に写っている掃き出しサッシの外部に昇降機を設置し掃き出しサッシから出入りするという方法もあります。もしスロープを設置していた場合は、そのスロープがかえって昇降機設置の邪魔になってしまいます。このような事情も考慮し、スロープは設置していません。

片麻痺の方のための階段です。行きと帰りに対応するため、両側に手摺が設置されています。このお住まいでは、右麻痺の方なので左効きで手摺を利用してもらいます。

また、階段の先端(段鼻)のタイルは色を変えた白色として、段差の視認性に配慮しています。

車いすの利用に配慮したLDK

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