木造住宅の断熱性能について
公開日:2018.09.06最終更新日:2023.03.27
- 木造住宅と平成28年度省エネ基準
- これから目標とする断熱性能は?
- ZEH、HEAT20が求める断熱仕様とは?
- 冷房期の平均日射熱取得率:ηAC
1. 木造住宅と平成28年度省エネ基準
すでに大規模の非住宅建築物の省エネ基準適合は義務化され、一定規模以上の建築物についても省エネ法に基づく届出が義務づけられています。住宅分野では、2025年(令和7年)4月までに全ての新築住宅の省エネ基準適合が義務付けられる予定(施行予定)です。その基準値は、既に平成28年度省エネ基準として定められ表示制度として運用されています。
さらに2021年(令和3年)8月の国土交通省の報道発表資料の中で省エネ対策等の取組の進め方に「2030年までに省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げ・適合義務化」とあり、2030年(令和12年)には省エネ基準を平成28年基準からさらに引き上げる予定のようです。
ZEHについて詳しくは次ページ2. これから目標とする断熱性能は?をご覧ください
平成28年度省エネ基準とは
平成28年度省エネ基準の元となる基準は平成25年度に旧「省エネ法」で定められたものですが、平成28年度の新たな法律「建築物省エネ法」で一部計算方法や指標が見直され新基準として定められました。
熱的環境のシェルターとなる建物自体の省エネ性能を示す外皮性能と、冷暖房や照明などの設備に関わる省エネ性能を示す一次エネルギー消費量の2項目で判断されます。建物の断熱性能を示す外皮性能には、
- Ua:外皮平均熱貫流率
- 室内空間と外部空間の境界となる外皮(屋根や壁など)の熱の出入りのし易さを表します。外部に出ていく熱量(熱損失量)を外皮等面積で割った値です。数値が小さいほど熱を通し難く断熱性能が高いことを示します。
- ηAC:冷房期の平均日射熱取得率
- 日射により建物に侵入する日射熱の量を表し、主に建物の向きと窓の性能が関係します。室内に入り込む日射量を外皮等面積で割った値です。数値が小さいほど日射熱の影響を受けにくいことを示します。
の2つの基準が定められています。
地域区分 | 1・2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
主な地域 | 北海道 | 青森 | 宮城 | 東海・近畿・中国・四国 | 鹿児島 | 沖縄 | |
外皮平均熱貫流率:Ua | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | - | ||
冷房期の平均日射熱取得率:ηAC | - | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 3.2 |
平成28年度省エネ基準をクリアする断熱材の仕様
平成28年度省エネ基準を満たす住宅にはどの程度の断熱材が必要なのでしょうか。過去の設計事例で確認してみます。
参考事例1:木造住宅2階建て、床面積・約36坪の場合
2004年(平成16年)に設計しました木造住宅2階建て、延べ床面積118m2(35.7坪)を参考に用いたいと思います。建設地は兵庫県で地域6(当時の地域区分は地域4)です。断熱の仕様は充填断熱、天井断熱です。断熱材の仕様は下の表の仕様です。
部位 | 種別 |
---|---|
屋根・天井 | グラスウール16kg品 厚み100mm |
壁 | グラスウール16kg品 厚み100mm |
床 | 押出法ポリスチレンフォーム3種b 厚み45mm |
UB基礎周囲 | 断熱材無し |
サッシ | アルミサッシ ペアガラス |
この住宅でUaは0.91となりました。平成28年度省エネ基準ではUa=0.87以下が求められますから、少し不足しています。そこで、壁のグラスウール16kg品 厚み100mmを高性能グラスウール14kg品 厚み105mmに変更するとUa値は0.85となり、平成28年度省エネ基準を満たします。
参考事例2:木造住宅平屋建て、床面積・約21坪の場合
2010年(平成22年)設計の木造住宅平屋建て、延べ床面積71m2(35.7坪)の場合です。建設地は兵庫県で地域6(当時の地域区分は地域4)です。断熱の仕様は充填断熱、天井断熱です。断熱材の仕様は下の表の仕様です。
部位 | 種別 |
---|---|
屋根・天井 | 高性能グラスウール14kg品 厚み155mm |
壁 | グラスウール16kg品 厚み100mm |
床 | 押出法ポリスチレンフォーム3種b 厚み60mm |
UB基礎周囲 | 押出法ポリスチレンフォーム3種b 厚み30mm |
サッシ | アルミサッシ ペアガラス |
上記の住宅でUaは0.71となりました。平成28年度省エネ基準のUa=0.87以下をクリアしています。
平成28年度省エネ基準に適合する住宅とは
上記の事例でもわかるように、外張り断熱など特別な事をしなくてもごく一般的に普及している断熱材を普通に施工することで簡単に平成28年度省エネ基準はクリアする事ができます。これまでも住宅金融支援機構のフラット35Sの利用の際に必要な省エネルギー対策等級4の取得に求められるグレードの基準です。
全ての新築住宅に省エネ適合が義務化されると、これまで確認申請の際には求められていなかった住宅の省エネ性能に最低限度の基準が設けられる事になります。この省エネ基準に近い値の断熱性能を持つ住宅が一般的になるでしょう。
ここで、平成28年度省エネ基準をクリアすることで安心しても良いのでしょうか?平成28年度省エネ基準をクリアすることで快適な住まいが完成するのでしょうか?