木造住宅の断熱性能について
公開日:2018.09.06最終更新日:2023.03.30
- 木造住宅と平成28年度省エネ基準
- これから目標とする断熱性能は?
- ZEH、HEAT20が求める断熱仕様とは?
- 冷房期の平均日射熱取得率:ηAC
2. これから目標とする断熱性能は?
これからの住宅に求めていく断熱性能を考えるに当たり平成28年度省エネ基準の他に指標となる基準をご紹介します。
平成28年度省エネ基準以外の指標となる基準
一つは、経済産業省が主導して策定したZEHという基準があります。ZEH(ゼッチ)とは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、住まいの高断熱化と住宅設備機器の高効率化を計りつつ太陽光発電などでエネルギーをつくりだすことで年間の消費エネルギー量の収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住宅のことです。
他には、2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会「HEAT20」という民間組織が定めた、G1グレード、G2グレードという基準があり、2019年にはG3グレードが追加されました。
どの程度の断熱性能(外皮性能)を求めるか
それぞれの基準の住まいが実際にはどの程度の断熱性能なのかを把握するのにとてもわかり易く解説してあるのがHEAT20が公開している「HEAT20 住宅シナリオ」です。
上で紹介したHEAT20のサイトで公開されている資料の中から一部の表をレイアウトなど編集しなおして掲載します。
地域区分 | 1・2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
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主な地域 | 北海道 | 青森 | 宮城 | 東海・近畿・中国・四国 | 鹿児島 | |
平成28年省エネ基準:Ua | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | ||
住宅内部で15度未満になる時間・面積の割合 | 4%程度 | 25%程度 | 30%程度 | |||
暖房期最低室温 | 10度 | 概ね 8度 を下回らない | ||||
経済産業省ZEH基準:Ua | 0.4 | 0.6 | ||||
HEAT20 G1:Ua | 0.34 | 0.38 | 0.46 | 0.48 | 0.56 | |
住宅内部で15度未満になる時間・面積の割合 | 3%程度 | 15%程度 | 20%程度 | 15%程度 | ||
暖房期最低室温 | 13度 | 概ね 10度 を下回らない | ||||
HEAT20 G2:Ua | 0.28 | 0.34 | 0.46 | |||
住宅内部で15度未満になる時間・面積の割合 | 2%程度 | 8%程度 | 15%程度 | 10%程度 | ||
暖房期最低室温 | 15度 | 概ね 13度 を下回らない | ||||
HEAT20 G3:Ua | 0.20 | 0.23 | 0.26 | |||
住宅内部で15度未満になる時間・面積の割合 | 2%程度 | 5%程度 | 2%程度 | |||
暖房期最低室温 | 16度 | 概ね 15度 を下回らない | 16度 |
2025年(令和7年)4月までに義務化される最新の平成28年基準レベルの住宅では、冬期間中30%の割合で住宅内の室温が15℃未満になり、最低の室温は8℃程度まで下がってしまうようです。暖房を切って就寝し、翌日の早朝の室温が体感温度で8℃程度になっているということです。昼間の最高気温が8℃の日を想像するとずいぶん寒いことが分かります。断熱性能を平成28年基準レベルの住宅にしてもまだこれだけ寒いのです。
では、最低の室温は何℃くらいがいいでしょうか。暖かければ暖かいほどよいと言えますが、建設コストも考慮しないといけませんし、深夜・早朝の部屋がそこまで暖かくなくても構わないという事情もあります。現実的なところで寒すぎない温度と言えば、何℃くらいを想像しますか?私だと10℃を超して11、12℃くらいが頭に浮かびます。そうすると、ZEHやHEAT20のG1グレードをクリアして、できればG2グレードを目標にしたいと言うことになります。
HEAT20 G1グレードのUa:0.56というと、平成28年省エネ基準でいうところの3地域で長野県以北、秋田県、岩手県、青森県などの東北地方で求められる値に相当します。HEAT20 G2グレードのUa:0.46は、平成28年省エネ基準では1、2地域となり主に北海道で要求される性能です。今の時点で北海道で主流の断熱性能の家を、近畿地方で目標としたいということになります。
平成28年度省エネ基準は目標値ではなく最低限度を定めた基準
2018年現在、新築住宅での省エネ基準適合率は5割程度だそうです。2020年に省エネ基準適合が義務化されると、この平成28年度省エネ基準を満たす住宅が当たり前となります。
さらに国の方針として段階的に省エネ基準を引き上げる方針が発表されています。2021年(令和3年)8月の国土交通省の報道発表資料「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた住宅・建築物の対策をとりまとめ」によると2030年(令和12年)までに省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げ・適合義務化する予定のようです。
参考情報
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた住宅・建築物の対策をとりまとめ - 国土交通省報道発表資料(R03.08.23)より
また上記のHEAT20作成の表を参考に検討してみても平成28年度省エネ基準の住宅よりももう少し高断熱で暖かい家が欲しいと思われます。平成28年度省エネ基準は必要にして十分ではなく満たすべき最低基準だといえます
さらには将来本当に省エネ基準がZEHレベルまで引き上げられますとH28年基準の住宅は旧基準の住宅とみなされ、万が一中古住宅として売らなければならなくなった時に資産価値が目減りしてしまうおそれがあります。
2030年の省エネ基準の引き上げを見越して最低でもZEHレベルの省エネ基準を現時点でクリアしておくのが良いと思われます。HEAT20のG2レベルを目標にするのが私のおすすめです。