木造住宅の断熱性能について
公開日:2018.09.06最終更新日:2022.11.29
- 木造住宅と平成28年度省エネ基準
- これから目標とする断熱性能は?
- ZEH、HEAT20が求める断熱仕様とは?
- 冷房期の平均日射熱取得率:ηAC
3. ZEH、HEAT20が求める断熱はH28年基準と比べてどのようになっているのか?
どの程度の断熱材を利用するとZEHやHEAT20の基準をクリアできるのでしょうか。木造住宅と平成28年度省エネ基準で参考事例1として挙げた2004年(平成16年)設計の住宅を基に、断熱材の種類や厚さをどのように変えればクリアできるのかシミュレーションしてみます。
元になる参考事例1の仕様は下表のものです。兵庫県で地域6(当時の地域区分は地域4)です。充填断熱、天井断熱で、基礎への断熱は施されていません。
部位 | 種別 |
---|---|
屋根・天井 | グラスウール16kg品 厚み100mm |
壁 | 高性能グラスウール14kg品 厚み105mm |
床 | 押出法ポリスチレンフォーム3種b 厚み45mm |
UB基礎周囲 | 断熱材無し |
サッシ | アルミサッシ ペアガラス |
この断熱仕様で、現行のH28省エネ基準(平成25年基準数値)で求められるUa:0.87に対し0.85と算出されました。
ZEHの基準をクリアする断熱材の仕様
さて、断熱材の仕様を平成28年省エネルギー基準からどのように変えれば、ZEHの基準Ua:0.6を満たすことができるでしょうか。
天井は懐に余裕がありますので敷き込みから桁上断熱に変更し吹込みのセルローズファイバー厚み300mmとします。外壁の断熱材は高性能グラスウール14kgの厚み105mmに追加して、外張り断熱材フェノールフォーム厚み20mmを加えた付加断熱とします。床は根太間断熱を剛床工法で大引き間の断熱に変更し、高性能グラスウール24kg厚み80mmを利用します。玄関や浴室などの土間周囲の基礎へフェノールフォーム厚み20mmを追加します。さらに、ドアはアルミの熱遮断構造でLow-Eペアガラスの中空層10mm以上の物を採用し、サッシは複合サッシでLow-Eペアガラスに変更します。
部位 | 種別 |
---|---|
屋根・天井 | セルローズファイバー(吹込み) 300mm (桁上断熱) |
壁 | 高性能グラスウール14kg品 厚み105mm + 外張り断熱材フェノールフォーム厚み20mm(付加断熱) |
床 | 高性能グラスウール24kg品 厚み80mm |
UB基礎周囲 | フェノールフォーム 厚み20mm |
サッシ | 複合サッシ Low-Eペアガラス |
ここまでやって、Uaが0.59となりZEHの基準をクリアできました。
平成28年省エネルギー基準から大きく変更する必要がありましたが、コストアップの要因以外は無理がなくとても受け入れやすい内容です。屋根の断熱材は少し分厚く重量が気になりますが、外壁の付加断熱は外壁が大きく膨らむ事もなく外張り断熱としては採り入れやすい仕様です。
HEAT20のG2グレードをクリアする断熱材の仕様
次に、HEAT20のG2グレードで求められるUa:0.46を満たす断熱材をシミュレーションしてみます。
ZEHのシミュレーション仕様をベースにします。天井は桁上断熱のセルローズファイバー厚み300mmのまま。外壁は高性能グラスウール24kg 厚み120mmに付加断熱として高性能グラスウール24kg 厚み120mmに変更。床:高性能グラスウール24kg 厚み80mmと土間周囲の基礎:フェノールフォーム厚み20mmのままとします。そのうえで、窓のサッシは樹脂サッシにアルゴンガス封入のLow-Eペアガラスに変更します。
部位 | 種別 |
---|---|
屋根・天井 | セルローズファイバー(吹込み) 300mm (桁上断熱) |
壁 | 高性能グラスウール24kg品 厚み120mm + 高性能グラスウール24kg品 厚み120mm(付加断熱) |
床 | 高性能グラスウール24kg品 厚み80mm |
UB基礎周囲 | フェノールフォーム 厚み20mm |
サッシ | 樹脂サッシ Low-Eペアガラス(アルゴンガス封入) |
これで、Ua:0.45となりHEAT20のG2グレードの断熱性能(外皮性能)をクリアします。
外壁の外側にさらに120mmの断熱材を外張り断熱材として貼り付けますので、外壁の厚みがかなり増します。また、サッシ・ガラスのコストアップもかなりなものとなりそうです。
ZEHとHEAT20のG2グレードをクリアする断熱材の仕様の比較
部位 | 平成25年基準 | ZEH | HEAT20 G2 |
---|---|---|---|
Ua | 0.87 | 0.60 | 0.46 |
屋根・天井 | グラスウール16kg品 厚み100mm | セルローズファイバー(吹込み) 300mm (桁上断熱) | |
壁 | 高性能グラスウール14kg品 厚み105mm | 高性能グラスウール14kg品 厚み105mm + 外張り断熱材フェノールフォーム厚み20mm(付加断熱) | 高性能グラスウール24kg品 厚み120mm + 高性能グラスウール24kg品 厚み120mm(付加断熱) |
床 | 押出法ポリスチレンフォーム3種b 厚み45mm | 高性能グラスウール24kg品 厚み80mm | |
UB基礎周囲 | 断熱材無し | フェノールフォーム 厚み20mm | |
ドア | アルミニウム製 ペアガラス | アルミニウム製熱遮断構造 Low-Eペアガラス | |
サッシ | アルミサッシ ペアガラス | 複合サッシ Low-Eペアガラス | 樹脂サッシ アルゴンガス封入Low-Eペアガラス |
まずは、これはモデルにした住宅でのシミュレーションの結果なので上記の仕様にすればどの住宅でも各基準をクリアできるというわけではありません。その都度採用予定の断熱材で計算する必要があります。それでも、各基準に対してどの程度の断熱仕様が必要かを把握することができました。例えば高性能グラスウール14kg品 厚み105mmの熱抵抗値は2.8(m2・K/W)です。これをインシュレーションファイバー断熱材(木質繊維の断熱材)の厚み100mmの熱抵抗値が2.4(m2・K/W)ですから、置き換えるのはそう難しくなさそうだなと判断できます。
天井裏や床下など納まりが問題になり難い部位なら断熱材の厚みを2倍ほどにするとか、厚みはそのままでもより断熱性能の高い材料に変更する程度の仕様変更でZEHの基準はクリアでき、建築的に無理が少なくまだ馴染みやすいものです。
HEAT20のG2グレードを満たす住宅になると、壁体内の断熱にプラスして外壁の外部側へかなり分厚い外張り断熱を施す付加断熱が必要なようです。この分厚い分だけ重量も嵩張る断熱材自体の取付けも確実な施工が必要ですし、窓枠などの開口部でこの分厚く膨らんだ外壁への建築的対応が必要になります。コストがかさばるだけでなく、施工難易度も上がります。
断熱性能の決定には、これらの断熱仕様に対するコストアップと希望する真冬の早朝の体感温度等を判断材料として利用できそうです。
省エネ基準で定める外皮は、屋根(天井)・外壁・窓・ドア・床(もしくは基礎)などの部位で構成する、住宅外部の空気(実際は熱です)を遮断し住宅内部の空気をすっぽりと完全に覆う風船のような膜を想像してください。
外皮性能はその膜がもつ断熱する能力を数値化したものです。外皮性能は屋根・壁・床などの部位ごとに個別の数値が定められたものではありません。全体をまとめて1つの数値で示します。
熱は四方八方から逃げますので、いくら壁の断熱性能が高くてもそこに単板ガラスの断熱性能が極端に低い窓を取り付ければそこから熱がどんどん漏れます。壁だけなど一部分の性能を取り出しても意味はなく、全体を一体として検討する必要があります。「壁の断熱材は高性能グラスウールですが厚みは何ミリ必要ですか?」のような部分的な質問がありますが、それだけでは「分かりません。」としか言いようがありません。
屋根や開口部の断熱性能を高くすればその分壁の断熱性能は低くてもクリアできます。また、大きな窓を設置して開口部から多量の熱が逃げるような場合、その対策はトリプルガラスの樹脂サッシなどを用いてサッシ自体の断熱性能を上げてもいいですし、開口部以外の天井や壁・床等の断熱性能を高くすることでも基準はクリアできます。その両方が必要な場合もあるでしょう。
ZEH、HEAT20の基準をクリアするには、部位ごとの目安はつけられても確実な解はありません。このページで記す断熱材の厚みはシミュレーションでその目安をつけたものです。